「家族崩壊」を引き起こす「横並び」食事スタイルのリスクとは?
緊急事態宣言が今月いっぱい期限の延長となりました。三つの「密」を避けて、「人との接触を8割削減」もあとひと月は続けなければなりません。ソーシャル・ディスタンスを取り、家庭内感染を防ぐために、一家で食卓を囲んで箸でつつきあって食べることも出来なくなりました。
人と人との距離をおくことにより、ディスコミュニケーションは避けられません。東日本大震災の際に「絆」を合言葉にして、被災者も被害に遭わなかった人も皆が一丸となって、難局を乗り越えた、あの時のようにはいかないのです。お隣の人との距離が広くなっては、「絆」は生まれません。
昨年のラグビーワールド杯では、「One Team」の掛け声とともに、日本中をラガーマンが熱狂させてくれました。スクラムを組み、敵の陣地に果敢に切り込んでいく彼らの姿は多くの人々に勇気を与えたのです。それが今、「コロナ禍」により、密接、密集がNGとなり、もはや「One Team」の絆は消えました。
どんな苦境に立たされても、すぐそばに仲間がいて、お互いに肩を組むことができれば、どんなにか心強いことでしょうか。「三密」を避けるために、肩を叩きあい、あるいはハグしてお互いに友情と勇気を確かめ合うのもままなりません。
人と人との距離をおくのは、感染の予防にはなりますが、その一方で、「絆」を弱めることにもなるのです。友人とも会えず、ただ自宅に缶詰にされて、一人で過ごせというのです。これでは、まったく「自宅」という監獄に閉じ込められたも同然です。身体の自由が奪われれば、精神の自由も奪われかねません。日がな一日、たった一人でテレビを見たり、ゲームばかりしていては、本当に人間はだめになってしまいます。
政府は14日に専門家会議を開いて、感染状況を子細に分析した上で、今後、緊急宣言を解除するための条件などを明らかにするといいます。はっきりいって、今頃になってやっと「出口戦略」を模索しているようでは、あまりにも遅すぎます。もっと早く、出来れば非常事態宣言を発出した時に、同時にその解除の条件も示すべきでした。
私たち日本人は規律を守る律儀な国民性ですが、先の見えない状況で、ただ「接触8割削減」やらの行動自粛のみを一方的に申し渡されても、さすがに我慢にも限度があります。今の「自粛要請」の先には明確な目標が示されるべきです。
ひと月前から私たちは新型コロナ肺炎が蔓延する兆しに、戦々恐々とし、感染予防のためには必須であるはずのマスクを求めて、四苦八苦せざるを得ませんでした。ところがご承知のように、薬局やスーパーには連日、マスクを求める人が押し寄せて、片っ端から買い占められてしまうのです。
さすがに、その後に開店前から行列を作らなければ入手できないという状況を打開しようと、ドラッグストアでは開店直後にはたとえマスクの在庫があっても、すぐには店頭に並べずに、任意の時間にひっそりと商品棚に収める手法に変えました。お陰で、ようやく暇を持て余している人だけしか入手できなかったマスクも徐々に品薄状態が解消されつつあります。
「横並び」で食事
「コロナ禍」で私たちの日常は一変しました。ソーシャル・ディスタンスで離ればなれになり、「絆」は失われました。家族間であっても同様です。政府の推奨する「新しい生活様式」とは、家族が揃って一つのテーブルで食事をとることすら、否定するものです。向かい合わせになって食卓を囲むのではなく、「孤食」を推奨するのです。居酒屋のカウンターのように横並びで食事をするスタイルです。
森田芳光監督の映画『家族ゲーム』に、家族が横並びで食事をする場面がありました。家族の崩壊がテーマの映画ですから、まさにそんな「崩壊家族」を象徴するシーンでした。やはり家族は向かい合って、お互いに一つの料理をいただくのが理想です。家族同士であっても感染を防ぐために、ソーシャル・ディスタンスを取って、横並びで食事することで、「家族崩壊」を招くリスクが高くなるのです。
家族同士が空間的にも精神的にも距離をおくようになると、家族の絆が失われかねません。家族なのに、まるで他人のように「オタク」呼ばわりするという「アキバファミリー」になってしまう。これが政府の推奨する「新しい生活様式」の実態なのです。確かに感染防止にはなるかもしれませんが、失われることの方がはるかに多いと言わざるを得ません。
カンヌ映画祭で「パルムドール」を受賞した『万引き家族』は、前述の『家族ゲーム』とは違い、本物の家族ではないにもかかわらず、昭和の時代にはどこにでもあったような、貧しいながらも一家での楽しい団欒の風景が描かれました。今すぐにも脆くも崩れ去ってしまうような危うい家族模様が印象的でした。いかに脆弱であろうとも懸命に家族が一致団結して逞しく生き抜こうとする姿は感動的でさえありました。一家団欒は家族の基本要素です。横並びで食事をとったり、家族がそれぞればらばらに食事をとるようなことがあってはならないのです。
何が「新しい生活様式」ですか。それとも「新型コロナウィルス」は日本人の家族の在り方さえも変えてしまったのでしょうか。