明日を元気に生きるための「心の処方箋」

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「屋根裏のニシキヘビ」発見に喜んでいる場合ではありません!

 灯台下暗しとはまさにこのこと。飼育していたアミメニシキヘビが”逃走”してから17日目に、飼い主の住む神奈川県横浜市のアパート屋根裏でとぐろを巻いていたところを動物の専門家によってあっさりと発見されたのです。

 

 

 その間、実にのべ269人もの警察官と消防隊員が、現場から半径300メートルの範囲にある河川や茂みなどで文字通り草の根を分けての大掛かりな捜索活動を行っていたのは周知のとおりです。

 飼い主は今回発見された屋根裏を3回は確認したと言うものの、全長3.5メートルもの大蛇を見落としていたとはまったく呆れるばかりです。ネズミか何かのような小動物ならいざ知らず、そもそも網目模様のド派手な爬虫類が、アパートの外壁に這い出していたらわかりそうなもの。道路を横切れば、必ずや通行人や走行中の車に目撃されるはずです。全長3メートル強の大蛇が忽然と消えるなどどう考えてもあり得ません。何故、もっと早く発見できなかったのでしょうか。

 

 

「大捜査」の末に

 

 

 見た目も恐ろし気な大蛇が件のアパートから誰の目に触れずに、離れた場所へ移動するのは恐らく至難の業だと思われます。ましてや捜索隊が血眼になって行方を追っていたのですから。所轄の神奈川県警戸塚署の副所長は"捜索”を打ち切った21日、「手掛かりがない状況で中止はやむを得ない。新たな目撃情報があれば再開する」と苦渋の表情で語りました。

 が、皮肉にも捜査打ち切りの翌日に、現場のアパートの屋根裏に潜んでいるところを捜査官ではない、動物園の園長によっていとも簡単に発見され、この「大蛇逃走劇」は突如幕を幕を下ろしたのです。

 

 

 日本の警察は世界で一、ニを争う捜査能力を誇ると言われています。ところが、最近はどうやら評判通りではなさそうです。今回の「屋根裏のニシキヘビ」事件のように、「初動捜査」の甘さが目立ちます。たかがペットのヘビ一匹のために駆り出された警察官の方々には労いの言葉を掛けるべきところでしょうが、素人目にもどこか”抜けている”としか言いようがありません。

 

 

 今回、失踪したヘビを発見したのは、静岡県の動物園「Zoo」園長の白輪剛史氏です。飼い主から依頼を受けてボランティアとして捜索に加わり、専門知識と”動物的"勘を以て、ヘビの潜んでいる可能性が最も高い屋根裏に目を付けたところはさすがです。何しろ警察でさえ見落としていたのですから。

 一方、捜索のプロ集団の面々はどうだったのでしょうか。おそらくアミメニシキヘビを含む爬虫類の生態に関する知識をほとんど持ち合わせていなかったのではないか。「敵」に関してろくな知識も持たずに、失踪人を捜索する場合と変わらぬ手法で”逃走中”の大蛇を求めて見当はずれな場所ばかりを探し続けていたわけです。

 

 

『まだらの紐』

 

 

 アーサー・コナン・ドイル作の名探偵シャーロック・ホームズシリーズに『まだらの紐』という短編小説があります。双子の姉妹が医師である義父と暮らす邸宅で、ある日、姉が謎の死を遂げます。姉の死に疑問を抱き、自らの身に危険を感じた妹がホームズに助けを求めてやってきます。死の直前に姉が残した「まだらの紐が」という不可解な言葉にホームズは大いに関心を抱き、事件の起きた邸宅に出向き、見事に難事件を解決するというストーリーです。

 

 

 いつもながらホームズの鋭い観察眼と推理能力に読者は感心し魅了されますが、姉の残した「まだらの紐」という文言からまだら模様の毒蛇が凶器だったという結末はまさに意表を突く内容です。奇想天外な殺害方法を考え出した作者は、ホームズ以上の天才だったのかもしれません。

 

 

 アミメニシキヘビは毒蛇ではありませんが、『まだらの紐』を連想させます。アミメニシキヘビは、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア、フィリピン等、日本列島よりはるか南方の熱帯、亜熱帯の地域で生息する大型の爬虫類です。30センチほどの小さなヘビが3メートルを超える大蛇に成長しますから、一般家庭でペットとして気軽に飼えるような愛玩動物ではありません。

 

 

 日本に輸入されているものの、動物愛護法により特定動物に指定されていて、昨年の6月からは家庭用のペットとして飼育することは禁止されました。それもそのはずで、インドでは、路上で寝ている人がこのヘビに丸ごと飲み込まれる事件が起きています。日本でも飼育が制限される以前に、ペットショップで飼育されていたアミメニシキヘビが店内に這い出して、経営者の家族がこれに巻き付かれて絞殺されるという恐ろしい事件がありました。

 毒蛇ではないにせよ、全長が3メートルを超える大蛇ですから、ひとたび人に巻き付けばギリギリと絞め殺される恐れがあるのです。愛玩動物にはまったく向いていないのは明らかです。

 

 

 結局、行方不明のヘビは無事保護されたものの、飼い主は不適切な方法で飼育していた事実が明らかになり、住んでいたアパートから引っ越さざるを得なくなりました。”大切なペット”は飼い主が飼育を続けることを諦めて、今後は爬虫類センターが新たな飼い主となる模様です。

 

 

 狂暴で危険な大蛇が逃げ出してからは、連日のようにテレビをはじめ、各メディアが大々的に報じました。そしてついに飼われていたアパートの屋根裏で発見された際には、ああ良かったと拍手喝采です。これでめでたし、めでたしと喜んでいて良いのでしょうか。

 

 

 捜索のプロ集団であるはずの警察が16日間かけても見つけられず、ボタンティアで参加していた動物園の園長が現場の屋根裏をひょいと覗いたら、あっさりと発見したとあっては、あまりにもお粗末と言わざるを得ません。

 今回の騒動から「コロナ禍」の日本人と政府・行政の緩すぎる対応ぶりが連想されてなりません。東京五輪まで2か月を切る今、緊急事態宣言の下にあっても危機意識の低い人々。唯一の「切り札」であるワクチン接種でさえも遅々として進みません。これでは「屋根裏のニシキヘビ」をなかなか見つけられなかったのも無理ありませんね。