明日を元気に生きるための「心の処方箋」

頑張り過ぎて疲れたあなた、心を痛めたあなたへ。言葉の癒しを実感して下さい

「うつ」を公表した「大坂なおみ」を理解しない人たち

  あの愛嬌ある笑顔の裏でずっと心の痛みに耐え続けてきたのか。

 女子テニス世界ランキング2位の大坂なおみ選手が先月30日に行われた全仏オープン1回戦に勝利した後、全試合を棄権し、自らのツイッターで長年うつ症状に苦しんできたことを公表しました。

 試合後の記者会見を拒否したことで、大会の運営サイドは罰金処分を決めましたが、彼女の病状を知るに至り、一日も早く元気を取り戻し復帰できることを願っているとのコメントを出したのです。

 

 

求められる「タフネス」

 

 

 日々、激しいトレーニングメニューを自らに課し、常に勝ち続けることが求められるのは、テニスプレーヤーに限らずすべての競技選手に共通する”宿命”というべきでしょう。ひとたびコートに立てば、それから数時間は1対1の真剣勝負です。たった一人で戦い続けなければならない非常に孤独な競技。それだけに強いメンタルがなければ、決して勝利することはできません。

 

 

 プロに限らずアマチュアも、テニスや卓球、ラグビーやサッカー等、どんな競技でも選手には常に精神的な重圧が掛かります。スポーツ以外でも同様です。将棋や囲碁棋士など勝負師と言われる人々は皆、孤独の中で戦うのです。高校や大学などの受験生もそうです。競争を勝ち抜くためにはタフでなければいけません。

 

 

  これまでにWTAツアーでシングルス7勝をあげ、グランドスラムは通算で4勝。全豪オープン大会で2018年、2020年に二度の優勝を果たした大阪なおみ選手。自己最高ランキングでシングルス1位という女子テニス界の「覇者」となった大坂選手は、どれほどのタフネスで試合に臨んだことでしょうか。そんな世界一のメンタルを持っていたに違いない彼女が、18年に全豪オープンで優勝を果たした頃から急に「うつ」の症状が現れるようになったというのです。

 

 

 これだけの歴戦の勇士が何故、今になって「うつ」だったと告白したのだろうか。会見拒否のエクスキューズではないか、という声もあるようです。あるいは、彼女がツイッターで見方によってはメディア批判に取られかねない発言を行ったことで一部の人々からバッシングを受けるようになり、「うつ」病を持ち出して攻撃をかわそうとしている、という意見もありました。

 

 

 むろんご本人の心の裡を他人である私たちがすっかり理解できるはずもありません。が、これだけは言えます。彼女の「うつ」は決して慢心による我儘やマスコミ批判のためのエクスキューズなどでは決してありません。

 3年前にうつ病を発症してからこれまでそのことを明かさなかったのは、彼女が心の「痛み」に耐えに耐えてきたからです。プロテニスプレーヤーとしてコート上では、最大限の忍耐と出来得る限りの努力で以てタフであり続けたのです。それがどれほど大変なことなのか。死ぬほどに辛かったはずです。心の痛みは時として身体の疼痛よりも激しい。

 

 

「痛み」を理解すること

 

 

 大坂選手だけでなく、市井の人も「うつ」病になります。発症の原因は様々です。人間関係や仕事上の問題など、個々人によって違いますが、ひとたび「うつ」を発症するとなかなか完治するのが難しい病です。

  大坂選手の場合は、全豪オープンに初優勝した直後から症状が現れたとのこと。優勝の栄冠に輝くということは本来ならばテニスプレーヤーにとって最高の栄誉のはず。喜びの頂点にありながら、何故「うつ」になったのか。専門医によっても見解に多少の違いはあるけれども、要するに、人はどんな時にどのような状況下で「うつ」を発症するのか、決まった法則はないのです。発症するきっかけなり原因は人それぞれなのです。

 

 

 大坂選手の場合には優勝したことが引き金となって「うつ」になったことから、「燃え尽き症候群」ではないかという見解があるかもしれません。でも大坂選手にはプロとして、まだこれから先の大会で優勝したいという強い願望があったはずです。彼女ほどの実力者が一度きりの優勝で満足し、「燃え尽きる」ものでしょうか。むしろ、優勝をばねにして、さらに上を目指そうという気持ちになったのではないでしょうか。

 

 

 他人に自分の病気を打ち明けるのには、それなりの勇気と覚悟がいります。ましてや「うつ病」というなかなか一般に理解されにくい「心の病」の場合はなおさらです。これまで何とかスポーツ選手らしい強靭な精神力で自らの「病」を隠してきたものの限界に来てしまった。それでも大坂選手は試合後の会見をボイコットするという方法で何とか切り抜けようとしたのです。が、その結果、罰金処分が下され、世間のバッシングに晒されることとなりました。

 もうこれ以上は自らの「うつ」病を隠し通せなくなったことを悟り、そしてついに「うつ」を発症していたことを公表しようと決心したのではないでしょうか。

 

 

 心の病気はとかく誤解されがちですし、理解されにくいものです。「うつ病」に限りませんが、健常人には「病」の痛みや辛さはなかなか伝わらないのです。こればかりは不幸にもその病に罹った人にしかわからないのかもしれません。

 納得がいかないという方もいらっしゃるかもしれない。でもどうか大坂なおみ選手の心の痛み、苦しみを理解しようとしてください。一日も早く彼女がコートに戻れるますように、願わずにはいられません。そして一人でも多くの方が彼女の「病」について理解しようと思っていただけたら、彼女の快癒する日は早まることでしょう。