「東京五輪」VS「デルタ株」の勝者はどちらか?
緊急事態宣言下の東京で開催中の「2020年東京オリンピック競技大会」。日本勢のメダルラッシュが続く中、各競技会場の観客席には人影はなく、テレビカメラの向こう側で視聴者がいくら熱い声援を送ろうとも選手たちに届くはずもありません。
いつかは五輪という大舞台に立つことを夢見て、幼少時より日々厳しい練習に励んできた代表選手たちの心情とは如何なるものでしょうか。家族からの声援さえ受けられず、孤独のうちに競技に臨む彼らが気の毒に思えてなりません。
実際、東京の新規感染者数は4058人(7月31日時点のデータ)とついに4000人の大台に突入。神奈川、埼玉、千葉県の隣接する3県でも軒並み過去最多の記録を叩き出し、さらに大坂と沖縄県が加わり、2日より緊急事態宣言の対象に指定されました。
「安心・安全な五輪の実現は可能」と大見得を切った政治家の方々、中止だけは何としても避けたかったIOCは今一度、爆発的感染の状況での開催がもたらす結果について重く受け止めていただきたい。
「感染五輪」も想定内?
東京五輪の開催が悲願だったはずなのに、競技会場に観客は一人もいません。街頭で行われる競技についても沿道での応援は控えるように言われています。せめてもの思い出に代々木のオリンピックスタジアム前に設置された五輪エンブレム前で記念撮影しようという方たちで連日、長い列が出来ています。いくら「不要不急の外出」の自粛とはいえ、せっかくの東京でのオリンピック大会です。列を成す人々をけしからぬとはとても言えません。
五輪開催の何か月も前からマスコミは「オリンピック反対」キャンペーンを展開してきました。少しも収束の兆しが見えない感染状況下で果たして「安心・安全な」五輪開催は可能だろうかという疑念が湧き、マスコミの「反五輪」報道と相俟って、世論調査では五輪開催に否定的な意見が大半を占めました。
しかしいざ始まってみると、マスコミは今度は大々的に東京五輪に関する記事を書き連ね、金メダルを獲るともうテレビも新聞も大騒ぎです。変わり身の早さでは日本のマスコミはメダリスト並みといえそうです。
競技会場は無観客でも国民は案外、個々人で静かに盛り上がっているのかもしれません。一方、目にも見えず音もたてずに「デルタ株」はすでに日本全国に蔓延しています。米国の疾病対策センター(CDC)の内部文書が米マスコミで報じられました。それによると「デルタ株」の感染力は風邪などの一般的な疾病とは比べ物にならないほど強力で、一人の感染者が平均8人から9人に感染させるというのです。
東京五輪組織委員会の武藤敏郎事務総長は1日の記者会見で、大会関連の新型コロナウイルス感染状況について「これまでのところ想定内のレベルと考えている」と述べました。五輪関係者の陽性者の累計は7月1日以降、264人に上りますが、この数字が想定内だとしたら、「安全・安心な五輪」などと誰がいえるでしょうか。無観客で競技を行うことは出来ますが、現在のような「感染五輪」は不可避だったのです。
恐るべき真の勝者
政府の対策分科会の尾身茂会長が会見で感染状況の現状について、「最大の危機」という強い表現を用いて警告を発しました。尾身氏は「感染を下げる要素がない」と語り、「社会一般の中で危機感が共有されていない」と強調しました。武藤事務総長の「想定内」という発言には当たらない状況であることは明らかです。そもそも組織委員会の幹部からして「危機意識」を共有していなかったわけです。
菅総理もIOCも「デルタ株」の国内蔓延がここまで急拡大するとは恐らく想定していなかったのではないでしょうか。尾身茂分科会会長を始め、専門家の方々の警告をもっと真摯に受け止めるべきだったと言わざるを得ません。
もっとも「宣言」下であっても大人数でのバーベキューや路上での立ち飲み族が後を絶たないようでは、危機意識を共有することは容易ではありません。アルコールの提供自粛に従わない掟破りの飲食店もそこここに現れるようになりました。これではいつまでたっても「コロナ禍」に終止符を打つことは出来ません。「コロナ慣れ」は若い年齢層のみならず国民全体にまで浸透しているのです。
日本勢のメダルラッシュはきっとまだ続くことでしょう。そして、「デルタ株」の拡大もさらに続くでしょう。政府が”最後の切り札”としている「ワクチン」の接種も遅々として進まず、その間に「デルタ株」や新たな変異種「デルタプラス株」が密かに国内に蔓延していく。英国で猛威を奮った「アルファ変異株」もある。「COVID-19」の脅威は一体、いつまで続くのか。マスクを外して自由に海外旅行やグループ会食を楽しめる日は来るのでしょうか。
五輪に続いてパラリンピックがもうすぐ開催されます。「2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会」は目論見通りの成功を納めることが出来るのか。「東京五輪」VS「COVID-19」。果たして両者のうちどちらが真の勝者になることでしょう。