明日を元気に生きるための「心の処方箋」

頑張り過ぎて疲れたあなた、心を痛めたあなたへ。言葉の癒しを実感して下さい

「ハンカチ王子」が示した「上品な引き際」

 「ハンカチ王子」こと日ハムの斎藤佑樹投手が17日、会見で改めて現役引退を表明しました。引退の意思については2週間前に示していましたが、球団側が斎藤選手のために「引退表明」の場を用意した形です。

 

 

 落ち着いたグレーの色合いのスーツに身を包み登場した斎藤選手は、冒頭で「今シーズンをもって引退することを決断しました。プロ生活11年間、温かいご声援を有難うございました」と語り、報道陣に向かって頭を下げました。

 同日に引退登板が用意されたことについては、「この日を準備してくれて感謝しています」と球団に対して謝意を述べ、チームメイトやスタッフに対しても、「本当にファイターズにはいい人ばっかりなので、今この幸せな気持ちでいられるのは皆さんのおかげ。ファイターズでプレーができて本当に良かったなと思います」と最後までこの人らしい品の良さと気配りに満ち溢れた温かい雰囲気を醸し出していました。

 

 

「いつも苦しかった」

 

 

 ご本人としては悩んだ末の決断だったのかもしれませんが、プロ野球選手としての実績からみれば、引退以外の選択肢はなかったはずです。ご本人が語ったように斎藤選手がプロとして活躍できたシーズンは、12年シーズンの開幕投手を務めて勝ち投手となったことくらいでしょうか。11年間のプロ野球生活は「基本的にいつも苦しかった」とこれまた正直に感想を述べました。

 

 

 斎藤投手が早稲田実業高校3年生の時にエースとして夏の甲子園に出場し、決戦再試合の末に、駒大苫小牧の”マー君”こと田中将大との伝説的一戦に勝利して優勝を果たしたあの瞬間こそ、彼の野球人生の最大のハイライトであったに違いありません。緊張のせいで流れ出る汗をハンカチで何度も拭う姿が何とも上品だったため、「ハンカチ王子」と呼ばれるようになった経緯は有名です。

 

 

 斎藤投手がハンカチ王子と呼ばれるようになった当時、ちょうどプロボクシング界で破竹の勢いでのし上がってきたのがプロボクサーの亀田興毅選手です。亀田選手に付いたあだ名は「浪速乃闘拳」。対戦相手に対する挑発的な態度もさることながら、会見などでもまるで”不良少年”さながらの調子で喋りまくり、額の汗をハンカチで拭う優雅な仕草の斎藤選手とは正反対の”下品”さが好対照でした。亀田選手と二人の弟も兄に劣らず”下品”だったため、父親を含めた亀田一家に対して批判的な見方をする方が多かったようです。

 

 

 亀田三兄弟とその父親も最終的に日本のボクシング界から追放されました。その経緯についてはここでは割愛しますが、要するに常軌を逸した”型破り”な行いが禍したとみて間違いないでしょう。一方、早稲田大学を卒業後にあらためてプロ選手になった斎藤佑樹選手は、後に大リーガーとしても大いに活躍したかつてのライバル、”マー君”ほどの大物にはなれませんでしたが、日ハム球団のいち選手として地味ながら真面目一筋にプロ野球人生を全うすることが出来ました。

 

 

ハンカチ王子」と呼ばれても

 

 

 すでに言い古されてはいますが、ハンカチ王子こと斎藤佑樹選手に決定的に不足していたのは、ハングリー精神だったのかもしれません。甲子園球場でのあの伝説の試合に勝利して「ハンカチ王子」と呼ばれるよりも、もっと泥臭く(汗臭く?)試合に臨むべきだったのかもしれません。『巨人の星』の主人公、星飛雄馬のように泥にまみれ、汗にまみれ、涙に埋め尽くされた日々を、果たして斎藤選手は経験したのだろうかと思われるのです。

 

 

 言うまでもなく斎藤投手は田中将大ほどの”才能”はありませんでした。彼がもっとも美しく見えたのは、あの額の汗をハンカチで拭う時の仕草です。そうです。育ちの良さを感じさせるに十分な上品さこそが彼の持ち味なのです。上品さと勝負への執念とは相反する要素なのかもしれません。ましてやプロスポーツの世界では試合に勝利することがすべてです。

 対戦相手に勝つためには時にはあのマラドーナが使ったという”神の手”さえ許されるのです。ボクシングの世界でも、レフェリーの目の届かない範囲ではいかに”下品”な手を使おうが、試合に勝利さえすればそれで良しという風潮がなきにしもあらずです。”品の善し悪し”などはまったく無関係なのです。

 

 

 とはいえ、彼の「上品さ」を生かせる世界は他にもいくらでもあります。まずはテレビ局をはじめマスコミ各社がすでに水面下で食指を動かしているようです。ハンカチ作法の美しい斎藤選手はいわゆる「スキャンダル」がほとんどないところが好感されています。ひと頃、球団社長からポルシェの提供を受けたとの報道がありましたが、クリーンなイメージが損なわれるようなことはありませんでした。スポーツ選手、とりわけプロ野球選手には何かとスキャンダルがあるものですが、彼くらいクリーンかつピュアなタイプは滅多にいません。各社が彼を欲しがるのも頷けます。

 

 

 早稲田大学を卒業したこともプラス評価でしょう。一流大学の野球部の主将を務めた後に日ハムでプロ選手となり、他の野球選手が陥りがちな反社会勢力との交流や違法賭博、暴力沙汰、薬物汚染といった”事件”を一切起こさなかったというのも、持ち前の「上品さ」ゆえかもしれません。

 

 

 引退会見の席で語られた球団やチームメイトやファンへの感謝の言葉には、嘘偽りは一切感じられませんでした。時折、笑顔を交えながら真摯な態度で会見に臨んだ斎藤選手。11年間の選手生活は苦しかったという正直に気持ちも包み隠さず述べました。ハンカチで汗を拭う仕草は見られませんでしたが、いかにも彼らしい上品な爽やかさが心に残りました。