明日を元気に生きるための「心の処方箋」

頑張り過ぎて疲れたあなた、心を痛めたあなたへ。言葉の癒しを実感して下さい

ゲルギエフ指揮『悲愴』を聴いて思ったこと

 ロシア軍のウクライナ侵攻に歯止めが掛からない。世界最大級の原子力発電所をすでに手中に収め、いよいよ首都キエフ制圧に向けた”最終”段階に入った模様。経済制裁を口にするだけで一向に軍事行動をとらないバイデン米大統領の弱腰を見透かし、今度は生物・科学兵器も辞さない勢いです。まさに狂気の沙汰という他ありません。

 

 

「最終兵器」

 

 

 ロシアの軍事侵攻の兆候を見逃さず、米国が軍事力を行使するとの強いメッセージをプーチン大統領に向けて発信していたら、もしかしたらウクライナが戦禍に巻き込まれる事態は避けられたかもしれません。しかし時すでに遅し、ロシアの背後に控える中国も含め社会主義諸国対アメリカを代表する民主主義国家との全面戦争が今まさに勃発しようとしています。

 

 

 第三次世界大戦の火蓋が切られ、いよいよ「最終兵器」が炸裂して世界が終わる。そんな悪夢が現実味を帯びてきました。もう地球上のどこにも安全な場所はありません。「世界の終わり」を前にして、私たちはどうすれば良いのか。マッドサイエンティストならぬマッドプレジデントたるプーチン氏を暗殺すれば地球は救われるのか。どうやらそれほど単純ではなさそうです。”黒幕”の中国がプーチン氏亡き後に世界の覇者となるからです。

 

 

 中華人民共和国。読んで字の如く、中国こそが世界の中心でありその人民が世界を支配するのです。尖閣諸島を巡り中国が公然と日本の領海侵犯を繰り返していますが、そんなものでは済むはずがありません。尖閣どころか沖縄もそして日本列島のすべてが中国領に取って代わる日も近い。何しろ、世界の覇者です。何でもやりたい放題に我が物顔で日本人を、世界中を土足で踏みにじることでしょう。

 

 

 そんな”悪夢”が現実のものとならぬように願わずにはいられません。今、私たちが最も欲しているのは他でもありません、世界平和なのです。平和だって…?、何を今さらと言うことなかれ。

 今から50年前のベトナム戦争時に、ジョン・レノンのあの名曲『ハッピー・クリスマス』のサビで何度も次のコーラスが繰り返されます。

 

「戦争は終わる

 そう願うならば」

 

 世界平和は50年前の流行語などでは決してありません。戦禍のウクライナで人々は心の奥底から「戦争は終わる。あなたがそれを願うならば」と声の限り叫んでいるではありませんか。彼らの願いは必ずや叶えられなくてはなりません。ウラジーミル・プーチンよ。あなたには世界中の民の声が聞こえないのか?その声の主は他ならぬロシアの民のものでもあることを理解しなさい。

 

 

ゲルギエフ氏の沈黙

 

 

 ウクライナから届く悲惨な映像にいたたまれない気持ちになって、テレビから離れオーディオセットの前に行き、CDラックから一枚を取り出しました。チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」、ヴァレリーゲルギエフ指揮、キーロフ劇場管弦楽団(現・マリインスキー劇場)。

 もう何度も聴いている愛聴盤ですが、この日は若き日のゲルギエフの怒涛のエネルギーよりも、こんなにも悲しみに満ち溢れた演奏だったのかという新たな感興を催しました。

 

 

 ご存知の方も多いと思いますが、ゲルギエフ氏は若くして同劇場の芸術監督に就任しその後に総責任者となって、ソ連の崩壊とともに経営難に陥った劇場を世界最高レベルまでステップアップさせました。

 世界的な名門オーケストラの首席指揮者を歴任し、世界一忙しい指揮者と言われたゲルギエフ氏ですが、今回のプーチン大統領の暴挙に対して異を唱えない姿勢に非難の声が上がりました。ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を解任され、各国の楽団から首を言い渡され、自らの劇団の海外公演もすべて中止となりました。

 

 

 ゲルギエフ氏はプーチン大統領と親しく、ウクライナ侵攻に肯定的な姿勢とみなされたのは当然かもしれません。ただし、ご本人はこの件について一言も見解していません。ただ沈黙を守っているのです。

 言うまでもなくゲルギエフ氏は政治家でもコメンテーターでもありません。譜面に込められた作曲家の思いや意図を掘り起こして、高度な芸術性を帯びた音楽を創造することの出来る、稀有なアーティストなのです。むろん芸術家であっても政治的な発言を積極的にする方もいらっしゃいます。ただ、ゲルギエフ氏は沈黙しているのです。その姿勢がけしからぬと言われれば、確かにそうかもしれません。

 

 

 マリインスキー劇場の最高責任者として同劇団を維持、運営していくためには、ロシアのような社会主義国にあっては時の権力者と上手に付き合わなければならなかったことでしょう。国家のトップと良好な関係を築くことなく、劇場を運営していくことなど極めて困難なのは容易に想像できます。それ故、頑なに口を閉ざし続けるより他ないのではないでしょうか。

 

 

 ロシアに関係するものはすべて悪者というのではありません。ロシア人全員が悪人であるはずもない。プーチン大統領とその国家体制が悪いのです。事実、ロシア国内ではウクライナ情勢についての情報を厳しく制限して、侵略の正当性を強調するのに躍起になっています。そのことはむしろロシア人の大半がこの侵略に対して否定的な見解を持つであろうことを恐れているからだと思われます。

 

 

 ウクライナに侵攻したロシアは確かに悪いけれども、チャイコフスキーゲルギエフ氏も悪人でもないのです。ムソルグスキーラフマニノフリムスキー=コルサコフも、ストラヴィンスキープロコフィエフショスタコーヴィッチも。

 

 

 心静かにゲルギエフ指揮の『悲愴』を鑑賞していると、自然と涙が溢れだしました。何と美しく、哀しい演奏でしょうか。プーチン氏こそこの曲の持つ芸術性に耳を傾けるべきです。今すぐ”友人”のこの演奏を聴きなさい。