年末を避けて「散髪」するのは今でしょ?
散髪のタイミングはどうされていますか?前髪が顔にかかって鬱陶しくなったからでしょうか。それとももみあげが伸びてからですか。カレンダーに散髪した日を記しておいて、そこから5週間たってからという方もいらっしゃることでしょう。人それぞれでそのタイミングが違うようです。私の場合、ロン毛になる寸前にようやく重い腰を上げて理髪店に行くことにしています。爪切りは二日か三日おきに必ずするのに、なぜか髪の毛を切りに行くのは、なかなか面倒に感じてしまうのです。なぜでしょうか。
髪は女の命
宗教的な理由によって髪の毛をカットしてはいけないというケースもあるようですが、そうした特殊な例はのぞいて、ごく一般的な方々の場合は髪の毛をどれくらいの頻度でカットするのでしょう。当然ながら、髪の毛は毎日一定の速度で伸びていきます。大体、一日に0.3から0.4ミリほどです。因みに、爪は0.08から0.12ミリですから、髪の毛はかなり早い速度で伸びます。それなのに、何故か爪切りは頻繁にしても、髪の毛はなかなか切りたがらないのです。
「切りたがらない」という表現を使ったのは、その人が髪の毛を気軽に切りたくないという気持ちが働いていることを意味します。とくに髪は女の命という諺があるくらいですから、女性は髪の毛を大切にされている方が多いようです。
行きつけのバーで親しくなったバーテンダーの方から以前、”意見”されたことがありました。当時、私はとある女性とたびたびそのバーを訪れていたのですが、彼女が席を離れた際に、こんなことを言われたのです。
「〇〇さん、ダメですよ。彼女が美容院にいったことに気付かなかったでしょう。前髪が1センチ短くなっていましたよ」
それを聞いても、私にはピンときませんでした。美容院に行ったことなどまったくわからなかったし、だいいち、前髪の長さが数センチ短くなったくらいではその違いに気付くはずもありません。そのバーテンダー氏には、女性の前髪に起こったわずかな変化をも見逃さない鋭い観察眼があったわけで、客商売とはいえ、そのプロ根性にはほとほと関心させられたものです。
その彼女とはほどなくして疎遠になったことを考え合せると、たとえわずかであろうとも髪の変化に気付けなかった私には、きっと失格の烙印を押されたのでしょう。髪は女の命という言葉を痛いほど実感させられたのです。
イデオロギーとしての長髪
このブログでローリング・ストーンズの『レット・イット・ブリード』についてお話しましたが、我らがストーンズの面々も1960年代当時は、メンバー全員が長髪でした。当時はロン毛が流行っていたこともありますが、ベトナム戦争末期、徴兵制があったアメリカでは、長髪は一種の体制批判の象徴でもあったのです。当時のアメリカ社会では、徴兵忌避のヒッピーがたくさんいました。彼らのスタイルは、ロン毛に髭というものです。髪を伸ばすという行為そのものが、イデオロギーでした。
髪は女ばかりではなく、男性にとっても命だった時代がありました。軍隊では必ず短髪と決まっています。それは今でも変わりません。自衛隊は憲法上、軍隊ではありませんが、自衛隊員は皆、短髪にしています。反戦の象徴として長髪にしていたのには、そんな事情も関係しているのかもしれません。
バブルの頃には、逆に短髪にするのが流行りました。今も短髪が主流のようで、あまり長髪の人を見かけませんね。効率第一で合理主義が最優先される今の時代には、短髪があっているのかもしれません。確かに、髪の毛が長いと何かと面倒です。洗髪した後に乾かすのにドライヤーを使わなければならないし、寝ぐせもつきやすい。前髪が目に掛かるとスマホの画面を見るのに、邪魔になります。やはり短髪の方が便利ではあります。
いわゆる芸術家と呼ばれる方々の中には、ロン毛が多いように思います。陶芸家や画家、彫刻家、等のアーティストには、なぜか長髪にしてる方が多いのです。恐らく、見た目が普通の勤め人のようだと平凡な人間に見えてしまうことを避けるためではないでしょうか。髪型も芸術的な主張のうちなのかもしれません。
「今でしょ!」
どうやら、たかが髪型といってはいけないようですね。髪型もファッションの一つですから、長髪、短髪にも流行り廃りがあってしかるべきです。でも道行く人々を観察すると、最近は髪型に個性を求める方はそれほど多くないようです。若い人も会社員も大体、長髪よりも短髪の人が多い。たまに長髪の男性を見かけると、この方はきっと芸術家か何かだろうなと思ってしまいます。
日本人は昔から正月を大事にしてきました。一年の計は元旦にあり、という諺があるように、新年には髪型もこざっぱりと切りそろえたいと考える人々が、美容院や理容室に殺到します。どこも順番待ちになります。ただでさえ何かとせわしない師走ですが、年末に近づくにつれてその度合いがさらに加速していきます。そんな切迫感が、うつの方には、耐え難いのです。理容室が混み始める前にさっさと散髪してしまいましょう。激動の’60年代とは違い、長髪がイデオロギーではなくなった今こそ、単純に髪が伸びたら散髪に行く。これでいいのです。散髪するのは、「今でしょ!」。