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三度目の「中華料理」会食に思うこと

 今年、残すところ大晦日のみとなりました。忘年会もすべて終了した今、思い起こせば様々な会合があり、そこでいろいろな方々と出会い、そして最後も飲み会で年末を締め括りました。先日、年末ぎりぎりにごく親しい人だけの忘年会がありました。

 

 

 もともとは、とある居酒屋の顔なじみ同士が店の最終営業日に、自然に集まって始まった飲み会でした。その後、店主が店を畳んでからも交流は続き、年に一度の恒例行事となって、今年で七回目を数えます。

 

 

 年齢も職業も様々ですが、お互いに何でも話し合える気の置けない仲間同士です。数年前に結婚してお子さんが産まれた方もいて、新たにご主人とお子さんも加わり、賑やかな会となりました。一年ぶりに顔を合わせても、大人はさほど変わりませんが、子供の成長の早さには驚かされます。ついこの前までベビーカーですやすやと寝ていたのに、幼稚園に上がるようになって、大人の会話に割り込むこともあるのです。

 

 

 話題に上るのも、これまでしばしばメインテーマとなっていた、未婚のメンバーのお相手探しが完了して、今度は親の介護や年金問題など切実なことが増えました。既婚者となりお子さんを設けた方は、今後、さらに家族が増えることを踏まえて、マンションの購入を考えている模様です。中高年は中高年で、若い世代はその世代でそれぞれに悩みがあるものです。年を取るというのは、そういうことなのでしょう。

 

 

 ところで、その会食は都内にある老舗中華料理店の個室で催されました。一番若い人が幹事役を買って出てくれるので助かります。中華レストランは今回が初めてでした。でも、私たち夫婦にとっては、お店こそ違いますが、今年で三度目の中華料理店での会食となりました。

 

 

 規模の大小に関わらず、忘年会などに利用するお店として、中華料理店は何かと便利です。料理はコース中心で、大皿から人数分に取り分けてくれます。今回のような少人数の飲み会でも、個室を使えるというメリットもあります。使い勝手の良い個室と美味しい料理も含めて、十分に満足の行くお店には違いありません。それでも、前回、前々回の中華料理店での会食が思い出されて、私たち夫婦は少し複雑な気持ちになりました。

 

 

 最初の中華料理店での会食は、今年一月でした。私たちが結婚する際にお世話になった方の古希をお祝いする会でした。その方は長年、国語の教員をなさっていて定年退職した後に、個人的に書道を知り合いの方々や元教え子などに教えていました。小柄な女性でしたが、男性のような力強い書を書かれました。妻はその方に長年、書を習っていた関係で、結婚式へのご出席を賜りました。古希祝なんて恥ずかしいからと遠慮されましたが、私を含めてお弟子さんからも説得されて、ようやく実現したのです。

 

 

 先生はしきりに、このような祝い事をされるなど自分にはもったいないことだ、とおっしゃいましたが、お弟子さんたちに囲まれ、終始にこやかに楽しそうな表情をされていました。まさか、それから数か月後に再び、別の趣旨で会食が行われることになろうとは、私たちをはじめ、出席された皆さんも思いもよりませんでした。

 

 

 そして二度目の会食は、先生の四十九日が執り行われた後に、一部の有志が集まり、お別れ会として催されたのです。中華料理店の個室には、前回、古希祝の際に先生を囲んで全員が顔を寄せ合ったスナップ写真をテーブルに据えました。参加者はごく少数でしたから、一つのテーブルで収まりました。次々と運ばれるコース料理を銘々で取り分けながら、途切れがちになる会話の中からこんな話が持ち上がりました。今回の幹事も前回の古希祝の時と同じ方でしたが、その方に参加者の一人が、

「そういえば、前回、先生の古希お祝いの時も中華料理屋だったね。何だかあの時の楽しい食事を思い出しちゃったよ」

 と言ったのです。別に悪気があったわけではなく、ただあの時も中華料理店だったので、そんな話をしたのだと思います。が、幹事役の方はその発言にひどく傷ついた様子でした。その後、ずっと下を向いたきり、話の輪に入ろうとしませんでした。

 

 

 親しい人だけが集まるお別れ会ですから、本来なら先生との思い出話をして、在りし日の先生を偲ぶことが目的のはずでした。でも、急に亡くなられた先生のことで笑いあうには、まだ日が浅かったのかもしれません。お店の雰囲気も料理の内容も申し分ありませんでしたが、お皿に盛られた料理はいつまでも残っていました。

 

 

 お料理の味を決めるのは、料理人の腕前には違いありません。それに加えて、給仕の方の気配りやお店の雰囲気にも大きく左右されるものです。個室をいくつも備える老舗の中華料理店では、当然ながら、一流の料理人が腕を振るい、見た目も華やかな品々が出されます。どの皿をとっても素晴らしい料理ばかりです。普段から高級レストランを利用される方には、そんなことはわかり切ったことでしょうけれども、私などにはそのような老舗の高級店で食事をする機会など、そうあることではありません。

 

 

 今年三度も老舗の中華レストランで食事をする機会を持てたのは、偶然のことです。それぞれのお店で素晴らしい料理が出されましたが、残念ながら、美味しい料理を真に楽しめたのは、先生の古希祝いの時だけでした。それで思ったのですが、やはり美味しい食事というのは、楽しく食することなのだということです。悲しい気持ちの時には、たとえ絶品料理を前にしても、少しもお箸は進まないのです。

 

 

 大晦日やお正月の三が日には、是非とも、皆さんが楽しい気持ちで、年越しそばやお節料理を味わうことが出来ますように。