明日を元気に生きるための「心の処方箋」

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鬱・不安を忘れるための「現実逃避の勧め」番外編

 鬱や不安から逃れたい。誰もがそう思いますが、なかなか難しいものです。でも一時的でも辛い日常から離れる方法はないものかと考えました。現実逃避こそがまさしく日常から逃れるには有効です。

 前回のブログでは、「現実逃避ベスト3」ということで、実際に私自身や知人が体験したことの中から効果があったものをご紹介しました。今回はその続編として前回に書ききれなかった、現実逃避の方法をお伝えします。

 ややマニアックかもしれませんが、やってみたら意外に面白かったので、お勧めします。

 

①思いっきり手間のかかるレシピの料理に挑戦する

 普段の家庭料理では洋食でも和食でも中華でも大体、決められた食材とレシピで調理された料理が食卓に並ぶのが普通です。料理を担当するのが奥様でもご主人でも、あまり面倒な料理を作ったりはしませんよね。たとえばお正月のお節料理とかクリスマスのディナーのような特別なイベントの時に供される料理の中には非常に手間のかかる料理もあるにはありますが、そんなのは年に一度か二度あるかないかでしょう。

 主婦の方の中にはご主人がたまに料理を作ろうと言い出すと後片づけやらが大変になるから、かえって面倒くさいからやめてほしいなどとおっしゃる方もいます。ですからもしいつも料理を作りなれていないあなたが料理を作ろうと思った時は、必ず事前に了解を得てからにした方がいいでしょう。

 いよいよ慣れないあなたがキッチンで一仕事しようとすることで、あなたはありふれた日常の一場面を特別なイベントへ変貌させるのです。先ほどあらかじめあなたがシェフになり替わる日を決める必要があるとお話しましたが、そのようにこれがいつもの夕食とはまったく違った一大イベントなのだということを奥様やご家族の皆様に予告しておくことで、あなたの手料理は大いに期待されるはずです。そこがポイントです。

 さて、いつもと違うシェフの料理の日がやってきました。もちろん、事前にどんな料理を作るのかについては十分に時間をかけてリサーチしておくことはいうまでもありません。ここでお勧めしたいのは、本格インド風スープカレーです。インド風というのは、カレーのルーは使用せずにご自分でスパイスを調合して調理することを意味します。たとえばスパイスにはクミン、カルダモン、シナモン、クローブ、ローレル、オールスパイス、ガーリック。もちろん基本となるコリアンダーターメリック、カイエンペッパー、ブラックペッパー、ジンジャーとごく一般的なスパイスだけで12種類も使用し、それぞれをレシピ本などを参考にして分量を調整してすりつぶして作ります。玉ねぎとニンジンをすりおろしたものを加えるとマイルドで食べやすいカレーになります。ここでは詳しいレシピについてはあえて書かないことにしますので、ご自分なりのオリジナルカレー作りに挑戦してみてください。

 カレーライスとラーメンは日本人の国民食ともいわれますが、オリジナルのスパイスを調合して作ったものは、定番のカレーなどとはまったく味も香りも趣が違い、シェフのスペシャル料理とするにふさわしい一皿となること請け合いです。上に挙げたスパイスを使えばほどほどに無難ながら普段とは違ったインド風スープカレーが出来上がるはずです。

 慣れない手つきでエキゾチックなスパイスを扱っている間は辛い毎日のことなど忘れ去ることが出来ます。だからこそ奥様やご家族に大いに期待を持たせて、今日は私が特別なシェフになるんだという気構えをもち、オリジナルカレー作りに挑戦することで、現実から遠く離れたインドのどこかのレストランの厨房で立ち働いているかのような錯覚を覚えることも可能になります。インドア派のあなたにぴったりな現実逃避法といえましょう。

 

②見知らぬバーでエトランゼを演じ切る

 東京には数多くのバーがあります。一流ホテルのメインバー、商店街にあるようなカジュアルなバー、飲み屋街の老舗バー、銀座や六本木などにある名門バー、新宿の文壇バー、四ツ谷の音楽バー、ハードロック専門のバー、古いジャズレコードを聴かせるバー、ピアノの生演奏が聴けるピアノバー、ジャズの生演奏を売りにするライブハウス等々、多種多様なスタイルのバーが星の数ほど存在しています。くさくさした気分を吹き飛ばすには、のん兵衛ならなじみのバーの一軒や二軒はあるものですが、日常から逃避することが目的ならば、これまで入ったことのない見知らぬバーにぶらりと行ってみましょう。

 大体、居心地のよいバーというのは表からは店内が見えにくいような作りになっていることが多く、扉を開けて中に入るまでそこがどんな雰囲気のバーなのかわからないものです。もし常連ばかりでわいわい騒いでいるような雰囲気の店だったら、あなたは下手をすると招からざる客となってしまう恐れがあります。そのような時は、すみません、店を間違えましたと言って、堂々と立ち去ればよろしい。その店には二度と入らなければよいのですから、気にすることはありません。

 さてたまたまちょっと雰囲気の良さそうなバーがあったら、まず入り口の前で少し様子を伺うのです。そして中の客がどんな感じの人たちなのか、スタイリッシュなバーなのかはたまたフレンドリーなバーなのかを見当をつけてから中へ入りましょう。一件目に入るバーは、まだ時間も早めのためふつう店内は空いていて、落ち着けるものです。カウンターのどこに座るかは、店の方に尋ねてからにしましょう。空いているのに妙に入り口近くの席を勧める店はあまり一見客を歓迎していないと考えられるので、店を間違えたとか言い訳してそのまま出るのが無難です。初めてのバーでは、トライ&エラーは必須です。

 最初は一見客らしくおとなしく静かにウィスキーのオンザロックか何かを飲みましょう。バーテンダーさんが話しかけてきたら、歓迎された証拠ですから、楽しいひと時を過ごせそうです。一件目は2、3杯にしておいて、次のバーに移りましょう。

 2件目には、前の店とは趣の違うバーに入るのも面白いでしょう。私はある時、荒木町のほそい路地を探検気分で歩いていて、行き止まりの近くにある小さなバーに入ったことがあります。店の扉の隙間からオスカー・ピーターソンのピアノが聞こえてきたので、思い切って店に入ったのです、扉を開けたらただでさえ狭い店内には壁中にレコードがぎっしりと並び、カウンターの端にターンテーブルでその『プリーズ・リクエスト』のレコードに針がおとされているのが見えました。棚には真空管アンプがあって、高い位置に設置されているスピーカーから実に心地よいジャズが流れてきました。その瞬間に私はこの店が大好きになりました。荒木町のDeepという音楽バーです。

 さあ、乗ってきた(酔ってきたかな)ところで、3件目に移動しましょう。六本木あたりに移ろうかとも思いましたが、タクシーを拾うのが億劫なので、荒木町界隈でまた別のバーを探すことにしました。ジャズの生演奏を売りにするバーがこのあたりには何軒かあります。先ほどの店で聞いたレコードのジャズが頭に残っていたので、次の店はピアノバーに決めました。Bully'sです。急な階段を地階へ降りると店の扉の前に着き、中から白熱したピアノの演奏が聞こえてきます。ハードバップばりばりの力強いピアノにしばし酔いしれました。

 実はこのピアノバーも翌日から常連になってしまったのですが、どのバーでも初めて訪れた時には、あなたはいちエトランゼなのです。知り合いのいない、初めて入るバーのカウンターであなたはエトランゼであることを強く意識するはずです。そして最後までそれを演じ切ることで、あなたはプロも顔負けのエトランゼになれるのです。一晩だけエトランゼの逃避行は許されるのです。店が気に入って次回訪れた時には、すでにあなたは常連客の一人になっているからです。

 初めてのバーのカウンターに腰を下ろした瞬間、あなたは日常から遠く離れた世界の見知らぬ他人になります。これぞ最高の現実逃避だと思います。