うつの心に響く「AI美空ひばり」の癒しの力
NHKスペシャル『AIでよみがえる美空ひばり』を皆さんはどのようにご覧になりましたか。人口知能(AI)によりひばりさんの本物に限りなく近い歌声が再現されたのを聞いて、私は感動して思わず泣いてしまいました。
番組内ではAIの技術によりオバマ前大統領の音声と画像を作り出すことも可能になる危険性もあること指摘していましたが、AIの将来性云々はこの際、どうでもいい。あの歌声は必ずや聞く者の心の琴線に触れるものであることに疑問の余地はありません。
AIの革新的なテクノロジーもさることながら、今更ながら美空ひばりという稀代の天才歌手の素晴らしさにあらためて感服した次第です。
番組ではひばりの声に倍音が含まれていることも紹介していましたが、確かにそれはそれですごいことなのでしょうけれども、周波数では表しきれない何かが彼女の歌声にはあるように思います。
今回はAIが彼女の声や歌い方の癖まで学習して、忠実に再現した「AI美空ひばり」が秋元康氏の手による”新曲”を歌うのです。レコーディングに残された本物の歌声ではなく、あくまでも人口的に作られた歌声です。それでも、私はあの歌を聞いて感動を覚えました。
人口の音声はシンセサイザーのようなものです。それでもあのAIひばりの歌声に心を打たれたのです。それはなぜでしょうか。
ホルスト作曲の組曲『惑星』という交響曲があります。カラヤン指揮でウィーンフィルハーモニー管弦楽団による演奏が有名ですね。この曲を全編電子楽器であるシンセサイザーで演奏したのは、冨田勲です。ムソルグスキーの『展覧会の絵』もシンセサイザーによって演奏され、世界的な名声を得ました。
当たり前ですが、ホルストの時代には電子楽器などはありませんから、普通のオーケストラによる演奏用に作曲されたものです。バイオリンやコントラバスなどの弦楽器のパートも木管楽器、金管楽器もすべて電子音です。発表当時には、確かに賛否両論がありました。でも、アコースティックのみによる演奏に比べて、電子音で曲を奏でるという冨田氏の試みは実に斬新かつ新鮮でした。何よりも透明感のある音色が美しく、幻想的ですらあります。
ポップスなどで用いられるドラムスも、電子ドラムやコンピューターにプログラミングされた電子音を使用することはめずらしくありません。生の歌声をアコースティック楽器にたとえるならば、今回のAIによるひばりの歌声は電子音には違いありません、それでも、聞く者の心を揺さぶることが可能であることを示したと私は受け止めました。
アコースティックでなければ本物ではないという意見もありますが、本当にそうでしょうか。何億円もするバイオリンの名器、ストラディバリウスの音色を聞き分けられるほどの鋭い感性を持つ人が、電子音による演奏はまったく聞く価値がないというでしょうか。そうではないと思います。それだけ音楽的な感受性の強い方なら、良い音楽は良いと素直に認めることでしょう。
AIの技術革新云々よりもその音楽が真に素晴らしいものなのかどうかが重要なのです。技術的なことはエンジニアに任せておいて、私たちは純粋にその音楽が魅力的かどうかで判断しようではありませんか。
むろん、大量の音源が残っているひばりの歌声は素晴らしいものです。彼女の歌声には心に響きます。うつの気分さえも彼女の歌声が癒してくれることは間違いありません。むしろふさぎ込んでいる時や沈んだ気分の時にこそ、時に悲しく、時に明るい歌声を聴けば、勇気づけられ、明日への活力が生まれます。
では、本物の歌声ではない、AIのひばりの歌はどうかといえば、こちらも心の琴線に触れる感動的なものだと断言しましょう。この際、本物かAIかはどうでもよろしい。心の隅々まで響き渡るその歌声は、まぎれもなく素晴らしいものです。心を揺さぶる歌声が”本物”である証しなのです。
あの番組を見て、すっかり「AI美空ひばり」のファンになった方は大勢いらっしゃることでしょう。昭和の時代を代表する歌手・美空ひばり。令和になって新しい「AI美空ひばり」が登場したのです。そしてAI美空ひばりもまたうつの心にしっかりと響きました。本当に癒されました。
もう一度、いや何度でも「AI美空ひばり」を聴きたいものですね。今年の紅白歌合戦に登場してくれることを期待しています。NHKさん、よろしくお願いします。