明日を元気に生きるための「心の処方箋」

頑張り過ぎて疲れたあなた、心を痛めたあなたへ。言葉の癒しを実感して下さい

「フリージア」の黄色い花が「癒し」をくれました

 せっかくの週末なのにはっきりしない天気にはがっかりです。こんな日には、自宅で音楽を聴いたり、読書して過ごすのも悪くありませんが、あまりじっとしてばかりいるのも考えものです。土曜と日曜日、たった二日間しかない貴重な休日を何もせずにぼんやり過ごすのでは、あまりにももったいない。とにかく外出してみましょう。

 

 

 特に目的を決めずに、足の向くまま、気の向くままに電車やバスに乗り込み、どこかへ行ってみる。まるで最近やたらと増えたバラエティ番組のようですね。でも、芸能人が、行き当たりばったりのバスや電車旅に出かけて、行く先々での人々との触れ合いを楽しむというのは、実はほとんどの場合、「仕込み」なのです。ドキュメンタリー番組にしても、さも偶然にものすごい野生動物に遭遇したように見えるのは、多分に、演出によることが多いのです。そんなテレビの”裏事情”を知ってしまうと、旅番組を楽しめませんね。

 

 

 気ままに外出しながらも、そこそこ楽しめなければ意味がありません。部屋に飾るためのお花を探すために、お花屋さんに出向くというのはどうでしょうか。お花でなくても、何か面白そうな本を探しに大きな書店に行くというのもいいですね。お目当てのCDやレコードを探すのもいいでしょう。とにかくひとつでも目的を定めて、それから外出した方が楽しいと思います。

 

 

いざお花屋さんへ

 

 

 週末初日から曇天の中、何かお部屋が明るくなるような、そんなお花を飾れば、気持ちもぐんと上向くに違いありません。さあ、思い立ったらすぐに行動に移しましょう。

 

 

 ショッピングにはいつもクルマで出かけるのですが、今回は、バスと電車を乗り継いで少し遠くの街まで行こうと思います。さっそく時刻表を調べて、バスに乗り込みました。休日の昼前の時間帯には道路もそれほど混雑しません。最後尾の座席に座ってしばしバス旅を楽しみました。

 

 

 いつもの道もクルマを運転して行くのと、バスの後部座席に乗るのとでは、車窓の景色もまったく違って見えます。バスに乗ると目線が高いので、普段は走りなれた道路でも、こんなところに新しいお店が出来たとか、古い建物がいつの間にか建て替えられていたことを発見して、なかなか盛り上がるものです。

 

 

 さて、目的地の商店街に到着しました。お目当てのフラワーショップに入り、さてどんなお花にしようかと眺めているうちに、ふとフリージアの黄色い花びらに目が留まりました。フリージアには白や紅、紫の花もありますが、明るく元気な感じのする黄色が好みです。香りもユリほど強くありませんし、バラの香水のような高級感はありません。花弁に顔を近づけるとほのかに甘く、儚げな香りが鼻腔を掠めました。

 

 

 お店にはたくさんの種類のお花がありましたが、可愛らしい黄色い花のフリージアに心惹かれました。カスミソウや他の花との組み合わせも考えましたが、迷うことなくフリージアを20本ほど買い求めました。自宅の部屋に飾るためのお花ですから、過剰に包装する必要はありません。花束のまま簡単にラッピングしてもらい、持ち帰ることにしました。

 

 

 気ままな外出です。気が向けば、電車に乗って別の街へ移動することも出来ましたが、手にいっぱいのフリージアを抱えたら、もうそれだけで十分です。再び行きとは反対のバスにお花と一緒に乗り込みました。

 

 

 バスに乗ると、フリージアの何とも言えない甘い香りが立ち上ってきました。フリージアの黄色い花。そこで突然、私は思い出したのです。このお花は母の大のお気に入りだったことを。

 

 

黄色いフリージア

 

 

 母は玄関やリビングにいつも季節の花を飾っていました。来客があるなしにかかわらず、部屋中にお花が溢れ、いい香りが漂っていました。私がピアノの練習をしている時に、母は脇に立って、私のピアノそっちのけでリビングの花瓶に生けられた黄色いフリージアをうっとりと見つめていました。私が難しいパッセージに手こずっている間もずっとお花ばかりを眺めていました。ピアノを諦めて、そんな心ここにあらずの状態の母を見上げると、母は少しはにかんだような表情で、こんな話を聞かせてくれたのです。

 

 

 フリージアのお花を見ていると、何だか懐かしい気持ちになるのよ。お母さんが子供の頃に過ごした、疎開先の長野のこととかね。ちょうどあなたくらいの年齢の時、空襲を逃れるために、何年間かそこに疎開していたの。でも楽しいところじゃなかった。

 学校では、都会っ子だからといってみんなから仲間外れにされたりしてね。そんな時は、妹と二人で田舎の庭に咲いていたフリージアの花をいつまでも見ていたの。そうすると、不思議に嫌なことも忘れられたのよ。

 一度だけ我儘をいっておばあちゃんにおねだりして、お洋服を作ってもらったことがあってね。フリージアのような黄色いお洋服が欲しいってお願いしたの。おばあちゃんは古い着物の生地で可愛らしいお洋服を作ってくれたわ。私はその服が大好きで、毎日、着ていたわ。本当にフリージアのような黄色だったわ。

 

 

 たくさんのフリージアの花束を手にしたら、遠い日の母の思い出が蘇ってきました。机の上の小さなフォトスタンドには、陽に焼けて色褪せた母の写真が収められています。フリージア花言葉のように「無邪気」な笑顔の母です。もちろん、背景にはフリージアの黄色い花束が写りこんでいました。