明日を元気に生きるための「心の処方箋」

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「コロナストレス」を癒す「歩き花見」のススメ

 全国で最も早く桜が開花した東京では、週末明けには満開となる模様です。20日春分の日が金曜のため、土日を含めて三連休を取られる方も多いかと思います。今週末は絶好の「花見日和」となりそうです。

 このところ新型肺炎のことばかり考えて、「コロナストレス」が溜まっている皆様には、是非ともこの週末、桜の花に大いに癒されましょう。

 

 

「宴会」は中止

 

 

 都内やその近郊には、桜の所謂”名所”が数多く存在します。私の住む地域にも、そのような川沿いに桜並木がある場所があって、そこでは毎年、「桜祭り」と称して地元の商店会が桜の木を照らすためのぼんぼりを設置し、屋台がずらりと並びます。

 でも今年は恒例の桜祭りは中止となりました。理由は言うまでもありません、新型肺炎の感染防止のためです。東京五輪の開催も心配ですが、その前に桜見物がどうなるのかが気になります。

 

 

 満開のソメイヨシノの木の下で、弁当を広げて宴会をするのが、花見の定番ですが、今年はどうやら「宴会」の方は中止せざるをないようです。桜の名所には大勢の花見客が集まります。つまり密集するわけです。そこでビニールシートの上で持参した花見弁当をつまみにビールや日本酒を楽しむ場面を思い浮かべてください。

 お花見会では、人と人とが近距離でわいわいおしゃべりしながら、タッパー入りのおつまみを箸でつまみ合いますよね。これこそ濃厚接触以外の何物でもありません。今や、花見の宴会でウィルスが感染する危険性を考えなければなりません。花見もできやしないじゃないかとの呑兵衛のぼやきが聞こえてきそうです。

 

 

 「桜祭り」が中止となった主な理由とは、まさしく”濃厚接触”の現場になりかねないからです。とはいえ、せっかく桜が咲いたというのに、花見自体をも禁止するわけにはいきません。そこで苦肉の策として、「立ち止まらず花見」が推奨されるのです。普段の年ならば、見事な枝ぶりの桜の下で記念撮影したり、花見酒を楽しみます。今年は宴会は自粛しなければなりません。お花見の会の代わりに、なるべく人々が一か所に密集しないように、満開の桜の前で立ち止まらずに、そのままスルーするという新しい流儀になりました。

 

 

 花見といえば、料理に酒が付きものだというご意見もあります。でもそれは何も桜でなくても、梅でもモクレンでも出来ます。要するに、桜を”肴”に一杯やろうというわけです。宴会なしの花見でも十分に堪能できるはずです。むしろ、純粋に桜を鑑賞できると思います。

 

 

 私を含めて酒飲みというのは、何かにつけて一杯やりたがるものです。ひと仕事を終えて一杯、商談がうまくまとまったから一杯、年末には今年一年ご苦労様でしたで一杯、といった具合です。その流れに、花見酒があります。

 

 

「歩き花見」でも癒されます

 

 

 桜を愛でるのに、何もアルコールの力を借りることはありません。酒がなくても、枝垂桜に感嘆し、風に揺られて散っていく淡い紅色の小さな花びらに、詩情に駆り立てられます。万葉集の桜を詠った、大伴家持の短歌。

 

足引きの山桜花一目だにきみとしみてば吾恋ひめやも

 

 あなたと共に山桜を一目でも見ていなければ、これほど桜が恋しく感じるでしょうか。ちょっとひねりがきいていて洒落ていますよね。

 

 でも私の中で一番、好きな詩はこちらです。在原業平の有名な和歌。

 

世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

 

 世の中に桜の花がなければ、春をもっとのどかな心持で過ごせるのに。桜は冬の寒い中にあっては固く蕾を閉じているけれども、春になった途端にあっという間に満開に咲き乱れ、そしてあっけなく散ってしまいます。散り際の潔さが日本人の心に響くのでしょう。

 

 

 宴会禁止とあっては、飲み会はまた別の機会にとっておいて、桜の花だけを見て歩こうではありませんか。それにしても、立ち止まることも許されないとは、少々風情に欠けますが、致し方がありません。花見をするのに、わざわざ混雑する名所に出かけることはありません。近所の桜で十分に楽しめます。

 

 

 ソメイヨシノは人工的に作られた品種であることは良く知られています。淡い小ぶりの花を枝に密集させて咲くのが特徴ですが、よく見ると幹に直接花を付けているものもあります。普通、植物は葉が茂ってから花を咲かせますが、ソメイヨシノはいきなり花だけが数日の間に爆発的に咲いて、またすぐに散ってしまいます。花が散り始める頃になって葉が出てくるのです。ちょっと変わっていますね。

 

 

 それに桜ファンには申し訳ないのですが、開花してから10日余りという短期間が見ごろで、黒っぽい幹や葉はとくに美しいわけではありません。一年を二十日で暮らすいい男という、相撲取りを皮肉った江戸時代の川柳がありますが、それと似ていなくもありません。たった10日ほどの開花時期だけで有難がられる木なのです。

 

 

 今のように一年に6場所をこなさねばならない相撲取りとは違い、江戸時代の力士はたった20日間の興行で暮らせたそうです。むろん、国技とはいえ大相撲も興行には違いありませんから、年に6場所にした方が実入りがいいに決まっています。でも、その分、やや有難みに欠けるのは否めません。短い開花を惜しむようにして愛でるからこそ、桜は日本人の心の琴線に触れるのかもしれません。