明日を元気に生きるための「心の処方箋」

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5月23日は「キスの日」と言われても・・・

 23日は何の日ですか?と問われて、即答できる方はそれほどいらっしゃらないかと思います。答えは「キスの日」です。はて、なぜこの日が「キス」なのだろうかと首を傾げつつ、調べてみると、1946年の同日に、日本映画では初めて”接吻”場面を登場させた映画『はたちの青春』が公開されたことが由来とのこと。

 

 

本邦初の「キスシーン」

 

 

 戦後間もない当時、GHQが「日本人もこそこそせずに、人前でも堂々とキスをすべきだ」との”難題”を映画会社に突き付けました。映画館のスクリーン上で繰り広げられるキスシーンに、上映館の前には連日、大行列が出来たと言います。その当時、日本人は皆、キスに飢えていたのでしょうか。

 

 

 どうやらそうでもなさそうです。江戸時代には「吉原」という公営の遊郭がありましたし、こと恋愛については、時代背景もさほど影響しなかったようです。現に「接吻」「口吸い」「口づけ」という言葉は古くから存在していましたし、文学作品にも使用されています。GHQに言われずとも、キス行為自体は洋の東西を問わずさほど違いはなかった模様です。

 

 

 『はたちの青春』(何とも工夫のないタイトルですね)で件のキスシーンを撮影する際には、演技とはいえかなり抵抗感が強かったために、苦肉の策として、唇が直接触れあわないように消毒液を染み込ませたガーゼをかまして行ったといいます。その点では、西洋人のように恋人同士でもないのに、親しみを込めて挨拶代わりにキスをするという習慣は日本にはありませんでした。えぇ!嘘でしょう?と今時の若い男女は俄かに信じがたいかもしれませんね。

 

 

 映画の「教育的効果」があったのかどうかはわかりませんが、イマドキの男女は友達以上恋人未満であっても、キスくらいは当たり前にします。渋谷や新宿などの繁華街や駅のホームなどに行けば、そこここでキスシーンが拝めます。(決して覗き趣味ではありません!)

 

 

 キスシーンが印象的な日本映画に『また逢う日まで』があります。1950年公開の古い作品ですが、戦争末期の東京を舞台に、明日をも知れない中、惹かれあう男女の淡い恋愛を描いた切ないストーリーです。特に有名なのは、二人がガラス越しにキスを交わす場面です。『はたちの~』のような消毒ガーゼではなく、ここでは透明なガラスが二人の唇の間にはあります。脆く壊れやすいガラスが二人のその後を象徴しているかのようで、涙を誘います。

 

 

 日本のキスには西洋人のそれのように日常的な習慣ではない代わりに、特別な感情が込められています。そんな大切なキスは一生のうちに何度も経験できるものではありません。大切な人とだけのとても貴重な宝物なのです。

 

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「キスの日」は流行するか

 

 

 フレンチキッスというのがあります。いわゆるディープキスのことです。クロード・ルルーシュ監督のフランス映画『男と女』では、ラストシーンでお互いに駆け寄って、抱擁しながら熱烈なキスをする場面があります。パートナーを失った苦い経験を持つ男女が互いに惹かれながらも、どこかで愛に対して及び腰。それでもなお強い愛の力によって過去のつらい経験を乗り越えて愛を成就させるシーンが、前述のフレンチキッスのラストで締め括られるのです。これまで押し殺していた愛情を爆発させるが如くの強烈なキスシーンです。

 

 

 同映画の主題曲は、フランシス・レイの作です。”ダバダバダ”というスキャットがとても印象的な曲です。劇中にたびたびこの曲が流れます。あえて歌詞を持たないスキャットにしたのには、愛は言葉の論理では計れないという意味が込められているのかもしれません。

 

 

 シンガーソングライター、ジョニ・ミッチェルの代表曲に『フランスの恋人たち』があります。ジャコ・パストリアスマイケル・ブレッカーパット・メセニーといった豪華なメンバーとのライブアルバム『シャドーズ&ライツ』の演奏が有名です。こんな内容の歌詞です。

 

若い恋人たちは橋のたもとで、車の中で、カフェでキスを

表通りを歩けば、キスは休日の旗のように眩しくて

「フランスではキスは表通りでするのよ」

「恋人よ、ママ。安っぽい看板じゃなくて」

そして私たちはくるくると踊りまくるの

 

 拙訳で恐縮ですが、要するに若者たちが愛情を爆発させて、浮かれ踊り狂うという愛の熱情について歌った内容です。「フランスではキスは表通りでするのよ」という部分が印象的な曲で、タイトルになっています。まあ、西洋人の中でもとりわけフランス人は情熱的なキスがお好きなようですね。

 

 

 日本人の「秘めたるキス」とフランス人のディープキス。どちらも素敵です。5月23日はジョニ・ミッチェルの曲のように、堂々と表通りでキスが出来る日としてもっと普及すればいいですね。ヴァレンタイン・デイやハロウィンのように。

 でも「コロナ禍」にあっては、感染症対策のためにきっと「キスの日」は推奨されないでしょうね。残念ながら。