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「命を守る行動」連呼も空しかった激甚台風から学ぶこと

 台風19号が上陸する前からテレビ報道は「命を守る行動をとってください」と連呼しました。気象庁も同様の表現を用いて、予想進路にあたる地域の人々へ向けて呼びかけ続けました。でも一体、どうやって「命を守る行動」をとれば良いのでしょうか。災害弱者と呼ばれる高齢者や体の不自由な方々、幼子のいるご家庭などは、どうすれば良かったのか。ただオウム返しのように「命を守る行動」と言われても、具体的な方法が伝わらなければ意味がありません。今回の激甚台風の教訓は今後、生かされるのでしょうか。

 

 

「命を守る行動」の具体性

 

 

 「命を守る行動」とは、どうやら早めに避難することと、停電に備えて避難袋の中身を点検すること、そしてもしも避難指示が発令された時間帯が夜間の場合、足元が危ないので、二階建ての住居では二階へ避難することくらいなものです。もっとひどいのは、がけ崩れなどの危険性が高い場所にある住宅では、なるべく崩れやすい崖側とは反対側へ移動せよというのもありました。

 

 

 果たして、「命を守る行動」がどれだけの人命を救えたのでしょうか。そもそも住居の二階に移動したところで被害が防げるとは限りません。崖側の反対側にいても土砂災害から身を守れるものでしょうか。穿った見方をすれば、「命を守る行動をとれ」と警告を発したというエクスキューズが欲しかっただけではないかと疑いたくもなります。

 

 

 具体的な避難方法が、どれだけ被害にあわれた地域の住民に周知できていたかについて、検証しなくてはなりません。今回の台風の被害実態については、いまだに把握しきれていません。言い換えれば、それだけ「命を守る行動」をとれなかった方々が多かったということです。

 

 

河川決壊の予測は

 

 

 台風19号の被害で最も深刻なのは、河川の氾濫による洪水でした。何と47の河川で決壊が起こったのです。台風19号の猛烈な勢力とその雨雲の規模については、確かに上陸する数日前から伝えられていました。前回大きな被害をもたらした台風15号よりも10倍もの雨雲を伴う台風だということは、私たちも理解していました。でもこれほどまでに各地で河川の決壊が起こるとは、ほとんどの方がうかがい知ることはできなかったはずです。どこどこの河川はいつ頃にどの程度の増水が予想されるから、流域の住民の方々は必ず避難してくださいと事前にもっと強く警告を発するべきでした。

 

 

 雨雲がもたらす大雨による河川の増水で決壊するという警告を、報道機関がもっと早い段階に発していたら、これほどまでの被害は出なかったかもしれません。これはよくよく検証しなければなりません。ただ「命を守る行動」という漠然とした表現で警告されても、ほとんどの方はそれほどの危機感を持たなかったのではないでしょうか。もっと具体的に「命を守る行動」について示されなければ、適切な避難行動をとることは難しい。我が身にどの程度、災難が降りかかる可能性があるのか測りかねたことでしょう。

 

 

身近な「危機管理」

 

 

 災害弱者の高齢者などが避難するには、一人きりではなかなか難しい。誰かの手助けが必ず必要です。自治体によっては、地域の一人暮らしの高齢者を見守る係がいるところもありますが、ただ高齢者宅の情報を町内会などが把握していても、実際に避難する段になって、どこまでそうした方々を介助することができるでしょうか。車椅子が必要な方々のお手伝いを町内会の担当者がどこまでやれるのか。恐らく、何とか背負うなどして避難所に移動することが出来るのは、ごく限られた人数でしょう。介護士などの専門知識を持たない素人がやれることには限界があるのです。

 

 

 たとえば、自治体が各地にあるデイケアなどを行う高齢者向けの施設と連携をとり、河川の決壊の危険性が高まった時などの非常時に、臨機応変に高齢者を避難所まで送るれるようにサポートする等、より具体的な避難方法を考えるべきです。「命を守る行動」はひとりではできないのです。誰かのサポートが必要です。そうした体制作りにさっそく取り掛からなければなりません。

 

 

 今、そして今後ますます必要となってくるのは、災害から住民の命を守るための具体的な方策です。今回の激甚台風から学ぶべきことはたくさんあります。喉元過ぎれば熱さ忘れる、であっては決してなりません。たくさんのことを学習して、今後も起こり得るであろう自然災害に備えることこそ重要なのです。

 

 

 政府は危機管理という言葉を頻繁に使用しますが、危機管理は何も国家の安全保障ばかりではありません。もっと身近なところにも目を向けるべきです。地球規模の温暖化により海水温が上昇し、フィリピン沖で発生する台風の卵はやがて巨大な目玉を持つ怪物へと年々進化していきます。専門家は今後はさらに大型の台風が日本列島に襲来するだろうと予測しています。国民の命と財産を守ることが使命だと明言する安倍首相ですが、ならば大型化の一途を辿る台風への備えについても、本格的に取り組んでいただきたい。

 

 

 「命を守る行動」を連呼するだけでは、被害を減らすことは出来ないのです。その後の洪水による大きな被害の実態を見るにつけ、報道機関が合言葉のようにそのセリフを繰り返す様子に空しさを覚えたのは私だけではなかったはずです。