明日を元気に生きるための「心の処方箋」

頑張り過ぎて疲れたあなた、心を痛めたあなたへ。言葉の癒しを実感して下さい

『千と千尋の神隠し』『東京物語』うつを癒してくれた映画の力

 映画には心を癒してくれる力があると思いませんか。

 

 日テレが今夏、三年連続でジブリ祭りとして、宮崎駿監督の映画を放送しました。『千と千尋の神隠し』は今年で9回目の放送だそうですが、毎回、必ず観ています。何度見ても飽きないジブリ映画には不思議な魅力があります。

 

 私もうつで苦しんでいた頃に、ジブリ作品に限らず、優れた映画を観て、とても癒されました。心にかかった厚い雲間から晴れ間がのぞくような、ヒーリング・パワーを備えた映画をいくつかご紹介したいと思います。

 

 

 『千と千尋の神隠し

 

 この映画こそ、ジブリ作品の最高傑作ではないかと個人的には思っています。登場するキャラクター一つ一つが非常に個性的。中でも最も興味深いのは、カオナシです。はじめ消え入りそうな存在感の薄い、大人しい性格に見えたのに、他人の欲深さを見抜き、やがて誰にも止められないモンスターと化していく。宮崎監督は一番最初にこのキャラクターを思いついたそうです。

 

 人間の強欲がもたらす悲惨な結果、善意と悪意の曖昧な境界線、人が侵してはならない領域、等々。いろいろなことを考えさせられる映画ですが、何よりも純粋に映像世界にどっぷりと浸れるところがいいのです。

 

 映画には現実世界とは違った、その映画の世界観や登場人物たちの人生観が詰まっています。映画に浸り切れば、自分がその映画の世界に入り込んだような気持ちになります。映画館の座席でも自宅のリビングでもいいから、そんな映画の世界の住人になれば、それこそ非日常を体験することが出来るのです。

 

 ましてや『千と千尋』は人間の世界と神の領域を行き来するストーリーですから、あなたもきっと千尋のように神の住む領域に入ってしまえば、もう現実のうつのことなど頭から消え去ることでしょう。

 

 現実逃避をするには、まさにもってこいの映画といえそうですね。

 

 

 『東京物語

 

 世界中で高い評価を得ている小津安二郎監督の代表作です。日本のみならず世界の名作映画の1本に挙げられる名作です。

 

 小津作品に多く取り上げられるモチーフは、ごく平凡な家族の平凡な日常です。一見すると制作年度が1953年という古いモノクロ作品のため、地味な印象があります。『東京物語』のテーマは他の小津作品と同様、家族の絆の在り方や家族愛です。専門家が指摘しているように、とにかくシーン毎に映し出される映像に一分の隙もないところがすごい。たとえば、何気なく家族が居間でくつろいでいるシーンなのに、うちわであおぐ速度さえも監督が指示したと言われています。私はこの映画のDVDをもう十数回は観ているのですが、その都度、新しい発見があって驚かされます。これだけ計算尽くされている映像もそう多くないだろうと思います。

 

 評論家でもない私が生意気だと叱られそうですから、このあたりで止めておきましょう。映画の芸術性うんぬんよりも映画そのものに何ともいえない癒しのパワーが備わっているように思えてなりません。映画の1場面、1場面に何とも不思議な静寂感と美しさがあって、見終わった後には、心が洗われるような気持ちがします。映画自体が古き良き日本を写し出していて、心の奥底に眠っていた古い思い出がよみがえるような気さえします。もちろん、50代半ばの年齢の私はこの映画の時代にはまだこの世に生まれていません。それでもなぜか懐かしい気持ちになります。とても癒される映画です。

 

 『パリ、テキサス

 

 ドイツ人のヴィム・ヴェンダース監督の代表作といえば、この映画です。84年に制作されたこの映画はカンヌ映画祭パルム・ドールを受賞しました。いわゆるロードムービーの傑作です。

 

 ネタばらしとなりますが、ちょっとだけあらすじをお話するのを許してください。数年来、行方不明だった兄が突然現れて、弟夫婦に預けられ育った一人息子に再会して、家出してこちらも行方知らずとなっていた妻を探し出し、母と息子を一緒にさせた後で、男は二人を残して再びさすらいの旅に出ていくというお話です。

 

 ばらばらとなった家族が再会しても必ずしも元通りになるとは限らないという、見方によっては残酷な結末なのですが、家族とは何かということを問う映画でもあります。小津監督も家族の絆をテーマにしていますが、ヴェンダース監督は砂漠のようにもっとドライで移ろいやすい人の心を描いています。『東京物語』とこの映画を比較して観るのもおもしろいと思います。

 

 

 映画の最大の魅力はやはり映像の威力だと思います。『千と千尋の神隠し』のアニメ作品でしか表現できない映像のすごさ、『東京物語』はモノクロの古い映画にもかかわらず、一分の隙もない磨き上げられた映像に感動します。そして『パリ、テキサス』の乾いた映像と人の心の脆さ、危うさ。それぞれにまったく違った世界観の映画です。

 

 映画の世界に入り込み、思いっきり登場人物に感情移入するもよし、その映画の持つ深いテーマ性について考えるもよし。いやあ、映画って本当にいいものですね。さよなら、さよなら、さよなら。なんてどなたとどなたのセリフかお分かりですよね。